ハンガリー(2003/6/1-6/8)

 ヨーロッパで唯一のアジア民族の国であるハンガリー。その祖先である草原民族を介して、日本ともつながっていると言われているこの国は、オーストラリア同様、音楽的伝統において、国境や民族を越えた音楽に対する懐の深さがあると言われている。
 そうしたお国柄で、伝統的な民族音楽に注目し、特に幼児教育に取り入れたハンガリーの著名な音楽家・コダーイ。 
 今回の研修では、コダーイの音楽教育理論を受け継ぎ、次代を担う子どもたちの教育にいかしている情熱溢れる教育者や、その教育を本当に楽しそうに受け入れている子どもたちの生き生きとした姿に出会うことができ、改めて“幼児教育者としての今の自分”を振り返るよい機会となった。更に、短い期間ではあったが、ハンガリーや音楽の本場オーストラリアの人々の生活にも触れることができ、誠実で愛国心の強い、何よりも音楽を愛する国民性も、肌を通して感じることができたことに、心より感謝したい。
 次に、研修内容を具体的に報告する中で、これらの思いを具体的に伝えたい。

◎ブタペスト市の保育士養成大学付属幼稚園を視察して
 92年の歴史をもつ幼稚園。ハンガリーの伝統工芸を取り入れた教育を行なっている。
 幼稚園の中に、“幼稚園博物館”があり、コダーイの写真やこの国の教育に携わった人々の足跡が見られるような数々の研究物や教材などが丁寧に整理され、保管されていた。また、その管理は、専属の職員が在駐して行なっている。
 生徒数84名、保育士8名。
 歌、シルク水彩画、ハンガリーの折り紙、裁縫の4クラスに分かれていた。
 年度当初、どのクラスに我が子が入るかは、保護者が決める。
 (歌のクラス参観)
 室内にはピアノが無く、先生の歌やリズムにあわせて歌ったり踊ったりしていた。
 床には、必要な範囲のみ、絨毯が敷かれていた。いくら走ったり、踊ったりしても滑らない、転ばない工夫が参考になった。歌遊びの内容は、身近な民謡や日本の童謡のような曲が次々と先生によって歌われ、子供たちはそれをよく聞いて友達と動く楽しさや心地よさを味わっていた。コダーイは、楽器からでなく、肉声を聞かせる楽しさを強調している。
 (その他)
・トイレの入り口には、使用分だけのペーパーが置かれたり、歯ブラシや櫛なども常設さ れ、音楽と同様、幼いうちから生活習慣もしっかり身につけさせようと心掛けているこ とが伺えた。
・国立の幼稚園であり、人的面、研修面など保障されていた。
◎大学講師ヘルガ女史によるレクチャー
・コダーイシステムを基に、母親教育に力を入 れている。
 ハンガリーは、子守歌があり恵まれている。母親は、子どもに目をあわせて歌ってあげること。年齢の低い子は、優しい音楽を聞かせること。
 音楽を通して個性(その人となり)を育てる。子どもの手に持て持てるような小さな人形用いて、音の高さ、テンポの違いを知らせるとよい。
 親子で一緒に人形を作り、一緒に歌うことを幼児期には特に大切にしたい。
◎ケチケメート市ケチケメート保育士養成大学付属幼稚園を視察して
・ケチケメートは、ハンガリーが生んだ現代音楽かコダーイの生まれた街。
 音楽教育に定評があり、特にコダーイメソッドのよる歌の指導は、世界的に有名。
 生徒数100名。
・教師の資質が高く、専門職が生かされていた。部屋にはピアノが無く、先生は1時間近 く歌いっぱなしで子どもと共に、リズムや集団遊びを楽しんでいた。その中で、目と目 を見て友達と手をつないで踊ったり、教師の真似をしてリズム打ちをしたりする楽しさ を教えていた。(教師の歌唱力、音程のよさ、リズム感覚の抜群)
・3年間学ぶ中で、メロディーのモチーフを覚え、音楽好きな子に成長する。
◎コダーイ・ゾルタン初等教育学校を視察して
・コダーイ直属の学校である。音楽教育に関しては定評がある。
 生徒数700名の大規模な学校。
・2年生の音楽の授業を参観。学級担任もあるが、音楽担当が別に配置されている。
 授業プロセスは、コダーイの民謡のメロディーやリズム感覚を教え、新しい複雑な民謡を習っていくと言うものであった。
・専門の音楽担任の訓練された美しい歌声に、参加者一同酔いしれた。
 また、授業に真撃に取り組む子ども達の姿から、日ごろの音楽のみならず、学校生活の充実が伺えた。
・伝統あるこの学校の生徒は、親もこの学校出 身者が殆どで、日頃から家庭においても音楽 が身体に浸透しているとのこと。
◎コダーイ音楽研究所を視察して
・廊下の壁面には、コダーイの音楽に対する情 熱の足跡が、写真や本で紹介してあった。
・薄暗い廊下を歩いて行くと、コダーイの音楽を、ハンガリーの人々が本当に大切にして いたことが訪れた人々に伝わってくるような特別の音楽室に案内され、コントウ・スザ ンナ女史からコダーイの音楽理念を学ぶことができた。
(コダーイの音楽理念)
「音楽教育を受けることは、すべての人間の権利である」を訴え、幼稚園・小学校の早期から教育することが大切であるとした。
 ハンガリーでは、3~7歳までの子供たちの90%が音楽教育を受けているが、この時期に学ぶと一生心身に残るといわる。
また、コダーイの音楽の目的は、難しい楽譜が読める人を育てることではなく、音楽好きな人間を育てることである。すなわち、大人になった時、コンサートに行くことを好む人や、みんなと一緒に楽器を弾くことが好きな人などを育てることであるとした。そのためには、3~4歳の頃から、歌と遊びが一緒になったもの、すなわち“わらべうた(遊び)”を生活の中に取り入れていくことが望ましとした。更に、つぎの段階としては、リズム感を発達させること。
 音楽は、人間にとって食べ物と同じである。従って、親は子どもに音楽を与えねばならない。親や教師が美しい歌声で歌うと、子どもは夢中になる。それが一番いい音楽教育の基礎である。
◎コダーイ・ゾルタン初等音楽教育学校を視察して
 ゴダーイメソッドによる音楽教育をしている学校。「耳が不自由で生まれてきた子供でも、音楽はできる」と言うコンセプトがゴダーイメソッドの基本的な考えである。この学校の卒業生から多くの人が、世界的に有名な指導者や作曲家・ピアニスト・演奏家などになっている。
生徒数は、580人。2/3/6年生の各音楽の授業を参観した。
 どの学年も、ゴダーイメソッドに基づいた指導の組み立てがあり、音楽の専門の教師の指導により、たっぷりと音階やリズムの勉強をしていた。また、児童一人一人が真剣に学び、どの子も“音楽が大好き”と言う雰囲気が教室中に満ち溢れた。
 授業の最後になり、その時間に学んできたハンガリーの民謡を今回はCDにより、確かめていた。
 一連の授業に参加し、導入から完結まで、丁寧に丁寧に自らの肉声で指導される教師の姿勢に、自信に満ちた専門性のすばらしさと同時に、教師自信の音楽を愛する懐の深さを感じた。
◎オーストラリア(ウィーン)を視察して
 音楽の都ウィーン。オペラ劇場、コンサートホールは連日開演。昼間からモーツァルトに扮した人達がオペラのビラをあちらこちらで、通行人に配っていた。
 石畳の道を観光客をのせた音楽情緒溢れる馬車が往来し、まさに音楽の都を物語っていた。
音楽は 太陽のようだ
  太陽の光は 発達のすべての分野にふりそそぐ
    (音楽による 子どもの発達 より)
まとめ
◎研修の第1の目的“幼児教育と音楽について学ぶ”から
 音楽教育者コダーイを生んだハンガリーと音楽の都オーストラリア(ウィーン)を訪ねたこの度の研修。コダーイについては、殆ど知識がないまま出発した私でした。
ただ、「音楽家コダーイ」ではなく、「音楽教育者コダーイ」と言われている所似には、とても興味関心を持っていました。そして、このことは、いろいろな施設を視察研修するに従い、とてもよい疑問だと言うことが分かってきました。
 コダーイの音楽教育は、前述した「コダーイの音楽教育の理念」の中にも述べられているように、乳幼児期の母子関係づくりの大切さ、すなわち母親が子どもの目をみて母親の肉声で歌ってあげることが子どもは心を安定させる。幼稚園に行く用になれば、先生の歌を聞き、友達と一緒にルールを守りながら集団遊びを楽しむようになり、友達とのかかわりの在り方を学ぶようになる。小学校では、更に音楽の基礎を学び、やがては自国の民謡に親しみ、自国の文化を大切にするようになる。このことがすなわち、愛国心や人を愛する心へと市だっていく。そして、ここからの過程において、教師の教育に対する情熱と専門性が子どもたちの発達を支える大切な基盤になっていることを私は再確認させられました。
 コダーイの、音楽を通して人を育てていこうとした一念は、今、私たちが日々の教育の現場で子どもたちと共に歩み、心を育てようとした地道な努力を重ねているその在り方に通じるところが大でした。これからも、教育の不昜と流行を考えるとき、このコダーイの思想を心にとめながら幼児教育に努めていきたいと思います。
◎研修第2の目的“目的を一緒にする人々と共に外国の文化に触れ、自国を見直し、その思いを職務に生かす”より
 サーズの感染が広がる中、マスクをして恐る恐る参加した今回の研修でした。
 しかし、その心配もヨーロッパではどこ吹く風で、毎日充実した研修の日々を過ごすことができました。初めて会った他の市町村からの先生方とも心が解け合い、身振り手振りと片言の英語でいろいろな場面を助け合って越えることもできました。また、ドナウ河の夜のクルージングや古式ゆかしい彫刻が立ち並ぶ町並を見ての感動は互いの心に深く焼き付き、いつまでも忘れることはできないでしょう。思い出は尽きませんが、どの国も幼児教育に携わる教師一人一人の、子どもたちを見る目は、常に温かく優しいまなざしでした。 
 時代を担歌い切な宝物を育てるかけがえのない仕事をさせていただいている私たちです。地球が少し縮まった感じになりました。
 幼保一元化、市町村合併などいろいろな動きがありますが、目的を共にする私たち岐阜県の幼児教育者達、どんなときも、子どもたちにとって何が一番大切なのかを、手を取り合って考えていける仲間に、これからもなっていけますよう、今回の出会いを大切にしたいと思います。

(研修報告書より抜粋)

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